TEACのカセットデッキ「V-9」
そのユニークな風貌から、別名「カメレオン」と呼ばれた。
この機体、
(1)再生せず、(2)電源 ON でモーターうなり音がする、(3)Lchレベルメーターが点灯せず音も出力されない、
というジャンクで購入した。
早速確認したところ、以下の3点に問題があった。
(1)再生しない理由は、ゴムベルト切れ。“切れ”というより“溶解”の方が正しい表現と思う、古いテープデッキあるあるな状態。
(2)モーターのうなり音がするのは、モード切替カムを回すプーリーのゴムベルトが切れて中途半端な位置で止まってしまったため、カムをSTOP定位に戻そうとカムモーターが回転し続けるのが原因。
これらベルト切れは、タールのようになったベルト残渣を丁寧に清掃して、新しいベルト掛けで直るので大したことはない。ただ、ベルト駆動するモード切替カムと位置検出VRの関係を正しくセットするのは重要で、さすがに Service Manual のお世話になった。
(3)の「Lch レベルメーター不点灯、音出力されず」の対処が少々面倒だった。
回路図を追った結果、普及価格帯の機種ということもあって回路構成は単純なことが判った。LINE OUT、レベルメータにはパラで「NE646」という Dolby-B IC からダイレクト出力されている構成だ。もちろん、電源ラインは正常。つまり“NE646”が怪しい。仕様をネットで調べていると「ごく希にこのICが故障し、ドルビーのエンコードまたはデコードが正常にできなり、ドルビーをONにすると音が歪んだりすることがあります。」とあった。本機の場合は歪む以前に不動になっている。そこで、正常動作している Rch の IC と交換してみると無事に音声が出力され、レベルメーターも付いた。
いつから壊れていたのか判らないが、少なくても1年使ったとしても1982年、すでに40年前の機器であって色々不都合が出ていても不思議ではない。
ということで「NE646」に原因があることが判明したので、新品を入手して念のため Lch/Rch とも交換。無事、両チャネルとも正しく動作するようになった。あとは、テープパスや各種レベル調整を行って修理完了。
質実剛健なイメージのあるTEACにしてはV-9の独創的なデザイン、1981年の発売当時も相当賛否を呼んだ記憶があるが、後にも先にもここまで割り切ったレベルメーターは見たことが無い。過大入力に弱く、ノイズレベルが高いカセットテープシステムにとって、この大胆さでは微妙な調節など到底無理。というより、むしろがんがんに過大入力させて一番右のLevel Over 位置まで光らせたくなる感じ。
一方でフロントデザインのユニークさとは別に、機構系は、キャプスタン用、リール用、モード切替用の3モーターでシングルキャプスタンタイプのロジカルコントロール、もちろん Metalポジションにも対応。
特長的なのは、ボタン操作時の機構音がとても静かなこと。ソレノイド(プランジャ : 電磁石)を使って「ガチャン」と大きな動作音がする機種が主流の中、カム駆動ですうぅっ!と録再ヘッドやピンチローラを上下させる、とても上品な動作音がする機構になっている。
この機種、ちょっと思い入れがある。1970~1980年前半、FMエアチェックという、FM放送番組から音楽録音して楽しむということが流行していた。必要な番組情報は、それを掲載した数誌の隔週刊雑誌「FM fan」「FMレコパル」「週刊 FM」から入手する。3誌には版元の特長がそれぞれあって、ポップス寄りの「FMレコパル(小学館)」を愛読していたのだが、毎号、読者参加型の新製品レポートという記事があり、それに掲載されたのが、このV-9だった。
試聴希望の機種などを書いて編集部に応募するのだが、前年発売の「SONY TC-K777を希望」は叶わずあてがわれたのが、この「V-9」。編集部から連絡をいただき、内心「えぇ~、あの変なヤツ?」と無念に思ったのだが、チャンスはチャンス、と試聴したいLPを数枚持って神保町まで出かけたのだ。編集部内の試聴室で、コーナー担当されいていた、当時あこがれのレコーディングエンジニア・及川公生氏とともに小一時間ほどあれこれ会話しながら試す。最後に記念撮影で終了。折々の会話は、編集員の手で綺麗に文章化されて記事となり、私としては心躍る経験だったのだ。
そんな思い出がこの機種には詰まっている。