SONY PCM-1 (Audio Unit)

1977年9月に発売されたSONY「PCM-1」。

PCMプロセッサというオーディオジャンルの製品だ。定価480,000円。消費者物価指数で現在へ価格換算にすると、2,000,000円というところかな? お高いです。

この製品は、A/DコンバータとD/Aコンバータの機能を持ち、A/D変換されたデジタルデータをNTSC標準テレビ信号にした上でビデオデッキを使用して記録、または再生してアナログ音声に戻す役割を担っている。この商品はデジタルオーディオ黎明期の、一般消費者向けとして発売された。このあとにソニーでは「PCM-1600」、「PCM-1610」、「PCM-1630」と開発が続いて、CD(コンパクトディスク)時代を支えることになる。コンシューマー機としては、EIAJ統一規格を採用した「PCM-100/PCM-10」、「PCM-F1」、「PCM-701ES/501ES」と繋がっていく。詳しくは、Wikipedia で。https://ja.wikipedia.org/wiki/PCM%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%B5%E3%83%BC

遠い記憶では、今は亡き秋葉原の石丸電気2号店(今そのビルはパチスロビルになってしまった)の、「♪デッカいわー!」のテレビCMでもよく出てきたエスカレータを上った正面にどーん!と供えらていた。その当時私は、中学生。多少そちら方面にも知識があったので、この製品がどういう意味や将来性を持つかは判っていたから当然欲しかったのだが、ベータデッキ(当時の最新機種は、SL-8500だったかな?)が必須だから、締めて708,000円! 予約注文だし、値段も値段だからもちろん買えませんでした…。

カタログデータなどは、「オーディオ回顧録」様のサイトに掲載されている。

http://knisi2001.web.fc2.com/pcm-1.html

本家SONYのサイトには、開発経緯などが記されている。

https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-07.html

https://www.sony.co.jp/Products/proaudio/story/story02.html


チャンスがあって手許に収まったので、さっそく開けてみる。

この製品は、NHK技術研究所とソニーが生産した放送機器としてのPCMプロセッサ「PAU-1602」のコンシューマ向け製品といえる。PAU-1602について写真はともかく実物は見たことがない。

当時の試作機や業務・放送機器でよく採用されていた、マザーボード + カード のプラグイン式になっている。

上(背面)側に、シールドされた電源ユニットや入出力ユニットが配置されている。
そのあと正面方向に、7枚のカードが並ぶ。

「Sync Separate 基板」


「P-RAM 基板」

P-RAM : TMS4044-20NL x1/ch


「PPS 基板」


「AD / DA 基板」

A/DコンバータLSI : BurrBrown ADC84KG-12 x1
D/AコンバータLSI : BurrBrown DAC-80-CBI-V x1
DAC LPF用 OP-amp : LF398 x1/ch
出力バッファ用OP-amp : LM310 x1/ch, LM310 x1/ch
A/DC LPF用 Op-amp : LF398 x1/ch
A/DC バッファ op-amp : LF356 x1/ch

中核のボード。上半分がA/D、下半分がD/A。左半分がLPF、S/H回路、バッファ回路。たったこれだけ。


「Sync Gen 基板」


「R-RAM 基板」

R-RAM : TMS-4044-25NL x2/ch


「Peak Meter 基板」

(フロントパネルへのコネクタが繋がっていて、外すのが面倒なので写真は省略)

最後に正面に「ヘッドホンアンプ」「メーターユニット」「SW / VOL部」となっている。

各スイッチング場面では「AD7512DIKN」が多用されている。

主要電源電圧は +15V / -15V

RAM容量の小ささが目立つ。使用チップはTMS4044、1bit x 4096word 構成の 4Kbit SRAM。平均値補間による誤り訂正機能しかないので、V-Sync期間用のバッファ程度という感じなのかな。
あと、汎用のTTL-ICだけで構成された「PPS」基板、この基板の目的はなんだろう? 因みに、基板裏には、適度なリワーク後があった。

Sync Gen基板のX’tal が金石舎(KSS)の「14098」と標記があったのだが、NTSCのColor Sc基準なら14318のはずなんだが、なぜこの周波数なんだろう?

なお、A/Dコンバータの型番で想像がつくかもしれないが、ADC LSIのビット数は12bitである。PCM-1の製品仕様では 13bit 3折線量子化(14Bit相当)と表現されている。開発段階では16bitを目指したようだが、16bit ADC などほとんどなく、あっても非常に高価だったから諦めたのだろう。とはいえ、このADC84KG ですら当時100,000円はしていたと思う。因みに今でも売られていて10,000円ほどで入手可能。
標本化周波数は 44.056kHzだから、対応周波数帯域の上限は 20kHz程となるが、量子化ビット数が12bit(4096段階)と少ないので、理論上は6.02N+1.76〔dB)から、12 x 6.02dB = 74dB程度でしかない。13bitでも80dBほど。今のCDより性能は低いが、当時としてはまさに画期的だったのだ。

ここでお願い。コンバータのBit数が12bitなのに、どうして13bitと表現されているのか、どなたか教えてください。

さて、これの再生音を聞いたことがあるのか? という点。
これについては、冒頭に挙げた石丸電気のデモ機で聞いた記憶がある。当時流行っていたSLの生録音かなにかだったと思うが、ダイナミックレンジ云々以上にノイズの少なさ、というか忌まわしいテープヒスノイズがないだけでこんなにすっきりした音になるのか!という感動があった。ただ、同時にきめ細やかさを感じなかったのも確かで、当時は判らなかったが、これは量子化ビット数が低すぎたせいだと今なら思う。せめて14bitは欲しかったな。
とはいえ、当時は、間違いなくこれからはデジタルだ!と中学2年の私は思ったのだ。

因みに手許にあるこのPCM-1、15V正負電源電圧に差異があり動作が怪しい。メンテナンスが必要だ。

上の基板左側のLSI < DAC80-CBI-V> は、オリジナルのBurrBrownのパッケージとは違う気がするな。手持ちを探し出してみた。改めてPCM-1 のカタログ写真を見たら、やはり ↓ のが載っていた。

回路図を入手したいのだが、インターネット上でPCM-1の情報は極めて少ない。先日、あるサイトでブロックダイヤグラムを見かけたので、書き直してみた。

まずは、録音時の構成。

再生時の構成。