エルカセット / ELCASET EL-D8 / 修理その1

これは以前入手していたものです。
 
某オークションの出品者説明では『電源は入るが、再生できない、テープ取り出しができない』というものでした。入りっぱなしになっているテープは“DUAD 60分”、良いじゃないですか。
 
さて、早る心を抑えて調査へ。
 
回転式の操作ノブを回すと…モーターの回転音はしますがテープが走行しません。モーター音がするので、とりあえず致命的な故障はなさそうですが、テイクアップリールも回ろうとしません。
なんでかな?
 
とりあえずカセットを取り出さなくては…。
 
ところが、イジェクトレバーを操作しても引っかかりがあり、カセコンの扉が開きません。
ピンチローラーアームの戻りもグリースの固化によって悪くなっていますが、なんとか鈍~く下がります。でも、カセコン扉は開きません。
 
なんか引っかかっている。これはおかしい。
内部をのぞき込んでみると、
 
 
 あ~あぁ…。
 
キャプスタンにテープが何重にも巻き付いていました。
 
大量にテープが巻き付いた結果、キャプスタン径が大きくなってピンチローラーとの隙間が無くなってアンロード時の通り道がなくなり、テープ保護フタも収まらなくなっていたのでした。
エルカセットの仕様をご存知の方なら判ると思いますが、VHSカセットのように、カセットハーフにはピンチローラーの動きに合わせて開閉するテープの保護カバーがあります。これが収まらないとカセットコンパートメントの枠にぶつかって当然カセットは取り出せません。もっとも、それ以上にテープが大量にキャプスタンに絡みついていますから、どのみち、無傷での取り出しは無理そうです。
以前、デッキを修理していた時、テイクアップリールのトルク調整が不十分で小さいために、キャプスタン以後のテープパス上でテープがダレ、それをピンチローラーが引っかけてテープをキャプスタンに大量に巻き取ってしまう、という現象がありました。
一度巻き付いてしまうと、キャプスタンがテープ巻き上げ機構に変化してしまい、あっという間にテープを大量に巻き取ってしまうことがあります。
今回修理しようとしているデッキも、おそらく同じよう事が原因かも知れません。仕方がないのでケースを外します。
カセコンのドアが上側ケースと一体になっているようです。ケースを外したいのに、カセットを取り出さなければなりませんが、カセットを取り出すにはケースを外したい…どうしましょ。
 
仕方がありません。キャプスタンに巻き付いたテープはどの道もう使えませんから、いっその事、切ってしまいます。
 
これが、巻き付いていた分のテープです。相当な圧力で張り付いていたのでしょう。写真中央には、磁性体が完全に剥がれて透明になった部分も見えます。何分分でしょう、3m程とすると5分程度、少々もったいない気もしますが仕方ありません。
それにしても、相当な圧力で長い間巻き付いたままだったんでしょう。キャプスタンにもガッチリと磁性体がこびりつき、IPAでの清掃も簡単ではない程でした。
キャプスタンのトラブルが無くなりました。まずは一段落。
スプライシングテープでテープを修理して…バラックのままとりあえず動作確認です。
 
 
テイクアップリールが動きません。
 
と、ここでこの機体のテープ巻付き理由が判明しました。要するに、テイクアップリールが回っていないために、キャプスタンから送り出されたテープの行き所が無くなり、キャプスタンに巻き付いた訳です。
早送りと巻き戻しは問題ありません。遊星タイプのアイドラは問題ないようですが、全体的にトルクが足りない気が…。スリップアイドラの圧力不足ですかね?
では、再生時のテイクアップリールが回転しない原因はなんだろう?
 
 
これでした。
 
写真では見づらいのですが、ゴムアイドラの肉厚が経年劣化で縮んで直径が小さくなり、リールハブと隙間ができてしまい空回りしています。というか、全然接触していません。手で回せちゃいます。これじゃ、テイクアップリールが機能する訳がありません。とりあえず、0.5mm厚ほど厚くしました。
再び再生。
 
おっ、動きました。
故障部分の原因究明は、これで完了です。このトンネルを抜けた時のような気分、何度経験しても楽しいものです。
内蔵スピーカーからは、前オーナーが録音していた音楽が再生され始めました。ん~、シャンソンのようですが、流石にこの分野は詳しくないので…。
 
ということで、一応動作することが確認できたこの機体、テイクアップリールの回転不良が原因でジャンクの仲間入りをしてしまい、そのまま何年も眠り続けていたのかもしれません。